Sample 07 / 欧州

チーズ
カビを味方につける技術

腐敗と熟成は紙一重。チーズづくりは、無数の微生物の中から特定の一種だけを選び、それに賭ける技術だ。

主な菌:乳酸菌・カビ・細菌 原料:乳・レンネット 熟成:数週間〜数年

乳を乳酸菌で軽く発酵させ、凝乳酵素を加えて固め、水分を抜いて塩を加える。ここまではどのチーズにも共通する工程だが、その後の熟成室で誰を主役に選ぶかによって、チーズの種類はまったく違う方向に枝分かれしていく。

01青カビという賭け

ロックフォールやゴルゴンゾーラに代表される青カビチーズは、あえて内部にカビを繁殖させることで作られる。チーズに穴や切れ込みを入れて空気の通り道を作り、そこにペニシリウム属のカビの胞子を植え付ける。カビは脂肪を分解して独特の刺激臭と風味を生み出す。有害なカビと紙一重の存在を、あえて狙って育てる大胆な手法だ。

02白カビが表面を覆う理由

カマンベールやブリーのような白カビチーズは、表面にペニシリウム・カンディダムというカビを繁殖させる。このカビは表面から内部に向かって酵素を送り込み、外側から中心に向かってチーズを柔らかく熟成させていく。切ったときに見られる、外側のとろりとした部分と中心のやや固い部分の違いは、この熟成が外から内へ進む性質をそのまま表している。

「同じ乳から出発しても、どの微生物に仕事を任せるかで、まったく違うチーズになる」

03カビを使わない道

すべてのチーズがカビを使うわけではない。チェダーやゴーダのようなハードタイプは、主に乳酸菌の働きと、時間をかけた水分調整によって熟成が進む。カビよりも穏やかな乳酸菌の代謝が中心となり、タンパク質がゆっくり分解されることで、硬く締まった食感と凝縮した旨味が生まれる。

観察メモ

  • 熟成室の温度・湿度管理は、狙った菌だけを優勢に保つための環境設計そのものといえる。
  • 表面を洗いながら熟成させるウォッシュタイプは、細菌の働きによって独特の強い香りを生む。
  • 熟成期間が長いチーズほど、タンパク質分解が進み、うま味成分であるアミノ酸が増える傾向がある。

04七つの標本を並べ終えて

味噌の麹、納豆の枯草菌、キムチと醤油とヨーグルトの乳酸菌、サワードウの野生酵母、そしてチーズのカビ。並べてみると、人類は世界のどこでも、目に見えない微生物と手を組む方法を独自に見つけ出してきたことがわかる。発酵食品とは、材料そのものよりも、どの菌に何を任せるかという「配役」の技術なのかもしれない。

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