Sample 05 / 東アジア

醤油
もろみが分解する旨味の設計

大豆と小麦から、なぜあの黒く澄んだ液体が生まれるのか。答えは、三種類の微生物が順番にバトンを渡していく、よくできたリレーにある。

主な菌:麹菌・乳酸菌・酵母 原料:大豆・小麦・塩 熟成:半年〜数年

蒸した大豆と炒った小麦に麹菌を繁殖させて「醤油麹」を作り、それを塩水に仕込んで「もろみ」にする。ここから先、醤油の風味の大部分は、もろみの中で交代しながら働く三種類の微生物によって作られていく。

01第一走者・麹菌の分解作業

仕込みの最初に働くのは麹菌が作る酵素群だ。プロテアーゼが大豆と小麦のタンパク質をアミノ酸に、アミラーゼがデンプンを糖に分解していく。この段階でもろみの中には、うま味成分であるグルタミン酸と、酵母や乳酸菌のエサになる糖が着々と蓄積されていく。

02第二走者・乳酸菌が整える土壌

糖が増え始めると、次に乳酸菌が活発になり乳酸を作り出す。もろみのpHが下がって酸性に傾くことで、雑菌の繁殖が抑えられ、同時に次の走者である酵母が働きやすい環境が整う。乳酸菌の仕事は目立たないが、後工程を支える下地づくりとして欠かせない。

「麹菌が材料を分解し、乳酸菌が場を整え、酵母が香りを仕上げる。三段階のリレー」

03第三走者・酵母が生む香り

酸性化が進んだところで醤油酵母が優勢になり、糖をアルコールや多様な香気成分に変えていく。醤油特有の芳香の多くはこの段階で生まれる。低温でじっくり時間をかけて発酵させるほど、香りの成分は複雑さを増していく。数ヶ月から長いものでは数年にわたるこの熟成期間が、大豆と小麦という素朴な材料を、複雑な香りの液体へと変えていく。

観察メモ

  • もろみを搾って得られる生揚げ醤油を、加熱処理(火入れ)することで市販の醤油になる。
  • 火入れは菌の働きを止めると同時に、香りを引き締め、色を安定させる仕上げ工程でもある。
  • 濃口・薄口・たまりなど地域ごとの違いは、大豆と小麦の配合比や仕込み方によって生まれる。

04一滴の中の三世代

できあがった醤油を一滴なめるとき、そこには麹菌が作ったアミノ酸の旨味、乳酸菌が残した穏やかな酸味、酵母が生んだ芳香という、三種類の微生物が順番に働いた結果が同時に溶け込んでいる。単一の菌ではたどり着けない複雑さは、このリレー構造があってこそ生まれる。

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